器の大きさ

【社長のメッセージ】2026/10/02

 「器の大きい人」と聞くと、どんな人を思い浮かべるでしょうか。他人の失敗に寛容である。細かいことにこだわり過ぎず、状況に応じて柔軟に考えられる。自分と合わない人でも、その人の良いところを見ようとする。そんな人が身近にいると安心しますし、「自分もこんな人になりたい」と思います。

 その話をする前に、「正義」と「正解」の違いについて考えてみたいと思います。

 世界的に人気の漫画『ONE PIECE』は、「海賊王」を目指す主人公ルフィが、仲間とともに大海原を冒険し、自由と夢を追い続ける物語です。
 一方で、世界政府の秩序を守る組織として海軍が登場します。その海軍のコートの背中には、大きく「正義」と書かれています。海軍にとっての正義は、海賊から市民を守り、世界の秩序を維持することです。
 一方、ルフィたちは、世界政府の法律に反してでも、仲間や自由を守ろうとします。
 つまり『ONE PIECE』では、立場によって異なる正義があり、その正義と正義がぶつかり合います。

 「正義」と「正解」はかなり違うものだと思っています。正解とは、一定の条件やルールの中で、答えが比較的はっきり決まるものです。「2+3=5」のように、前提が同じであれば、誰が考えても同じ答えに近づきます。
 一方、正義は「何を正しいと考えるか」という、その人なりの考え方です。そこには、その人の経験、価値観などが関係します。同じ出来事を見ても、立場が変われば正義も変わります。

 会社の中にも同じことがあります。例えば、「同じ役職や等級であれば、成果に多少の差があっても、できるだけ同じように昇給や賞与を支給すべきだ」という考え方があります。
 一方で、「同じ役職であっても、努力や成果に差があるなら、その差を昇給や賞与に反映し、成果を出した人に多く支給すべきだ」という考え方もあります。

 どちらにも、それぞれ理由があります。しかし、この二つを完全に同時に満たすことはできません。そして厄介なのは、いつの間にか、自分の正義を「正解」だと思い始めてしまうことです。
 特に仕事に真面目で、一生懸命考え、成果を出してきた人ほど、自分なりの「正しいやり方」を持っています。それ自体は決して悪いことではありません。
 ただ、成功体験が積み重なるほど、「このやり方でうまくいった」、「だから、このやり方が正しい」、 「だから、他の人も同じようにやるべきだ」 と考えやすくなることがあります。

 私は、ここに「器の大きさ」が表れるのではないかと思っています。器を大きくするとは、自分の考えをなくすことではありません。 また、「人それぞれだから、どちらでもいいよね」と考えることでもありません。
 「人それぞれ」という言葉は、一見、相手を尊重しているように聞こえます。しかし、組織ではそれだけでは意思決定ができません。少し厳しい表現になりますが、「人それぞれ」は、思考停止状態ではないでしょうか。

 会社では、いろいろな考えを聞き、その上で最後には「今回はこの方向で進もう」と決める必要があります。大切なのは、決める前に、「自分とは違う立場から見れば、別の正義があるのではないか」と考えてみることです。
 部下には部下の正義があります。上司には上司の正義があります。営業には営業の正義があり、設計には設計の正義があり、製造には製造の正義があります。お客様にも、お取引先にも、それぞれの正義があります。

 相手の考えを理解することと、相手の考えに同意することは同じではありません。いろいろな考えを聞いた結果、「やはり自分の考えの方が良い」と判断することも当然あります。それでいいと思います。
 大切なのは、自分と違う意見を最初から排除せず、その背景や理由を一度、自分の中に入れて考えてみることです。そして、十分に考えたうえで、最後は責任を持って決める。

 私は、それが組織を率いる人に必要な「器」なのではないかと思っています。私自身も、自分の経験や成功体験にとらわれて、「自分の考えが正しい」と思ってしまうことがあります。
 何でも受け入れることが、器の大きさではありません。また自分の意見を曲げることが、器の大きさでもありません。
 器の大きさは、「どれだけ多くの意見を受け入れたかではなく、自分と違う意見をどれだけ真剣に考えたかで決まる」 私は、そんなふうに考えています。

 そして社員の皆さんから「あの人は器が大きいな」と思ってもらえるような人に、私自身も少しずつ近づいていきたいと思います。