
【社長のメッセージ】2025/08/01
2007年、スティーブ・ジョブズは初代iPhoneの発表会で、メディア関係者、アナリスト、Appleファン、ビジネスパートナー、アプリ開発者など、多くの関係者を前にプレゼンテーションを行いました。
当時披露されたiPhoneの試作品は、インターネット接続が途切れたり、電話がかけられないほど不安定な状態だったと言われています。しかし、このプレゼンがきっかけでiPhoneへの期待は一気に高まり、開発者、マーケター、生産者、そしてユーザーの心が一体となり、イノベーションが起きました。結果としてiPhoneは大成功を収めました。
ジョブズは後にこう語っています。
「People don’t know what they want until you show it to them.」
(人々は、それを見せられるまで、自分たちが何を欲しいのか分からないものだ)
私たちが実感する「試作品」の力
規模の違いはありますが、私たちも日々の業務で試作品の効果を強く実感しています。最近の例を挙げます。
ROシリーズの「ハンドル」や「ペン形サンプラー」、そしてハンディー水質計シリーズの「まきとりーる」、「浮きウッキー」、「プローブホルダー」。これらは、ダンボールや発泡スチロールを接着剤で貼り合わせて模型を作ったり、3Dプリンターで試作品を製作し、関係者の意見を取り入れながら改良を重ねて製品化しました。
試作品を関係者に見て、触ってもらうと、頭でイメージしていた以上に便利だと気づいてくれます。「こういうことがやりたかったのか!」「もっとこうしたらどうか?」といった意見が活発に飛び交い、会議室は熱気に包まれます。 関係者には「自分ごと」という当事者意識が芽生え、自発的に製品化へ推進してくれるのです。関係者を巻き込むことがリーダーの役割だとすれば、目で見て手で触れられる試作品を作ることは、とても有効な手段だと考えています。
誰もが試作品を作れる時代
「自分には専門知識がないから無理だ」と諦める必要はありません。今は無料で使える高性能な3DCADでモデルを作ったり、数千円で購入できる小型のボードコンピューターに、AIに教えてもらいながらプログラムを書き込んで、簡単な計測器を作ることが可能です。試作品を作る程度であれば、少し学ぶだけで誰にでもできます。
高度な専門知識が必要になるのは、お客様がどんな扱いをしても壊れず、安定して動作するよう「量産化」する段階です。これこそが、プロのスキル、経験、そして膨大な時間を要する領域であり、技術職の専門性が発揮される部分です。
しかし、試作品を作るレベルであれば、そこまでの高度な知識は不要です。むしろ、試作品を作れるスキルは、もっと多くの社員が持つべきだと考えています。
現場で「一次情報」をつかみ取る
ここまでは、私の「ものづくり」における体験をお話ししました。しかし、直接ものづくりに携わらない部署の皆さんも、ぜひ「一次情報」を自ら手と足を使って取りに行って欲しいのです。一次情報とは、皆さんが自身で直接取得した情報のことです。
例えば、営業部の社員であれば、製品を簡易的に改造してもらい、お客様の現場でデータを取ってみる。購買部の社員であれば、購買先に出向いて加工している場面を見せてもらい、私たちが求めるQCD(品質・コスト・納期)を実現するにはどうすべきか、直接話を聞いてみる。
ビジネスパーソンとして高い成果を出し、貢献していくためには、関係者を巻き込む力が非常に重要です。時間をかけて膨大な企画書やキレイなスライドを作るよりも、見て触れられる試作品で膝を叩くような体験や、現場の生の声を共有する方が、関係者の心を動かし、大きな推進力となるでしょう。
皆さんの日々の業務において、新しい視点や行動のきっかけとなれば幸いです。