イノベーションは人間観察から

2019/07/05【社長のメッセージ】

 日本政府は韓国との交渉として、半導体材料3品目に対して輸出規制に踏み切りました。
 韓国の貿易収支は、半導体産業のウェイトが大きいです。その半導体製造に無くてはならない技術を日本が握っています。今後、韓国は厳しい状況になるかもしれません。
 輸出規制が日韓関係の打開策として、良いか悪いかは横に置いておいて、日本の民間企業の製品が二国間の交渉に使われるほどインパクトのある技術があることに驚きました。同じ国内メーカーとしてリスペクトします。

 当社の製品は頑丈です。それがお客様に認められ売上を伸ばしてきました。しかし、皮肉なことに壊れにくくなったおかげで買い替え需要が以前と比べると少なくなっています。加えて、お客様は、現在使っている製品と比べて少し改良した新製品では、買い替えをしてくれません。
 改良ではなく、革新的な製品を開発する必要があります。革新的な製品とは、今まで誰も気づけなかった問題を、視点と方法を変えて改善した製品です。
 それはみなさん分かっていると思います。だからお客様の現場に行ってお困り事を聞いてみるが、新しい意見がもらえない。そんな理由から徐々にお客様の現場から足が遠のいてしまっています。

 昨日、ISOの監査官から面白い話を聞きましたので紹介します。
 IDEOという会社の事例を教えてもらいました。この会社は世界最高のデザインコンサルティング会社と呼ばれており、自社で製品を作っているのではなく、革新的な新製品開発の支援をしている会社だそうです。
 革新的な製品を開発の手法とは、デザイン思考という手法だそうです。
 まだ自動車がなかった時代、人々の交通手段は馬車だったころ、次に何が欲しいですか?と尋ねたら「速い馬」という答えが返ってきたと思います。残念ながらお客様は我々が期待している答えを持っていません。
 IDEOの開発手法の第一歩は、人間観察です。当社の酸素計を使って作業をしているお客様を観察させてもらい、身体や腕の動かし方、手待ち、表情の変化を見逃さないように観察させてもらうことで、お客様自身も意識されていない問題を抽出していきます。
 それを会社に持ち帰り、チームで問題を整理、解決すべき課題の設定、課題の解決方法をブレインストーミングで出していきます。
 当社は優秀なエンジニアが揃っています。課題を解決するのは得意な会社だと思います。しかし、全力で解決すべき課題の設定が苦手です。日本企業の生産性が低いと判断されるのは、この課題設定に問題があります。当社はデザイン思考法から学ぶべきことが大いにありそうです。

この手法は、新製品・新サービスの開発だけでなく、社内の生産性向上にも役立つと思います。
 新人に「どこかやりにくい作業はあるかな?」と聞いても、残念ながら先輩たちが期待している想定外の意見を聞くことはほとんど無いと思います。そうではなく、新人の動作や表情を注意深く観察して、やりにくそうな作業、つまり品質のバラツキになりそうな工程や時間短縮が作業者の慣れに頼る工程を特定することができると思います。
今期も約10ヶ月経ちましたが、生産性向上活動の成果が出ていない部署は、まず現場の観察から始めましょう。革新は、普通を見直すことから始まります。