「抽象化」

2023/03/03【社長のメッセージ】

私:「鉛筆を持ってきてくれる?」
新入社員:「すみません。鉛筆はありませんでした。」
私:「鉛筆じゃなくても、書くものなら何でもいいよ。」
新入社員:「はい。探してきます。」

 この後、将来有望な新入社員くんは、ボールペンを持ってきてくれました。私が依頼を あいまい にすることで問題が解決しました。

 私たちは物事を5W3H(いつ、どこで、誰が、何を、なぜ、どのような、どれくらい、いくら)で、具体的にすることを教えられてきました。具体化は、不具合の原因特定や改善を抜けや漏れなくおこなうために大切なプロセスです。

 また、上司からの仕事の指示が抽象的だと、どこから手を付けてよいのか分からず、行動に移せなかった経験があると思います。そのようなときは5W3Hで具体化することで、一歩が踏み出すことができたと思います。

 一方、抽象化とは、複数の情報に共通する要素を抜き出すことです。鉛筆やボールペンに共通する要素は「書くもの」です。抽象化によって重要でない細部の情報を取り除き、物事の本質を捉えることができるようになります。

 私は飯島電子のラーメン部に所属しています。先日、3年振りに活動しました。にわかのラーメン好きですが、豚骨ラーメンの聖地である福岡で、貝を使った貝だしラーメンが急増しているらしいとの情報に驚きました。その背景は、福岡でラーメン屋を新規で出店する際の大きな壁は安さです。福岡のラーメンは500円といった値段はまったく珍しくないのだそうです。ガス代や小麦の価格が高騰する昨今、新規で出店するためには、高価格で食べてもらえるラーメンを提供する必要があります。

 そこで、ラーメンの食材としては高級な食材である貝を使い差別化し、豚骨の匂いが苦手な人をターゲットにすることで、価格競争に巻き込まれないようにしているようです。

 しかし、今後も複数の新規参入者が柳の下の二匹目のドジョウを狙って、貝だしラーメン屋を出店しては、価格競争になって共倒れになってしまいます。

 新しいアイデアを生み出すために抽象化は有効です。「貝だしラーメン」という具体的な事実を抽象化すると、「高級食材をダシに使ったラーメン」となります。さらに抽象度を上げると「プチぜいたくを体験できるラーメン」となります。今度は逆に具体化していきます。ここで一つコツがあります。ターゲットをずらす事と自社の強みを意識して具体化していきます。ターゲットは健康と美容に意識が高い女性。自社の強みはスーパー等で使われない新鮮な魚の骨をほぼ無料で利用できること。とすれば、「貝だしラーメン」に対して、水菜がたっぷり乗った「ゆず香る 鯛だし塩ラーメン」はどうでしょうか。ネーミングセンスは私の今後の課題として、これからますます増える貝だしラーメン店で、厳しい競争に巻き込まれずに営めるかもしれません。

 余談ですが、あらゆる仕事は「仮説」と「検証」の繰り返しです。他社の成功事例と失敗事例を眺めていても、最初の一歩を踏み出す仮説を立てなければ始まりません。仕事の成否を決めるのは、なるべく精度の高い仮説を立てる事と、仮説と検証のサイクルを増やす事です。

 抽象化は、具体を概念に置き換えることで、「自由で柔軟な解釈」を可能にして、独自のアイデアを生み出すことができるようになります。

 抽象化は、これ以外にも多くの効能があります。上司や同僚から「要するに、どういうこと?」と言われることが多い人は、「今からお話しすることは、要はこういうことです。」と伝えてみましょう。

 物事の抽象化と具体化を自在に操れるようになると、みなさんの活躍の場が一層増えると思います。